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▼駄文 第8回 実録!警察21時半頃

ある日、道路脇に車を止め、事務所に電話をした瞬間、4人フル乗車のパトカーが私の車の前に急停車した。
何事か、と思っていたら、警官全員が降りて、なんと私の車に近づいてきた。
リーダーとおぼしき警官の一人が私の車の窓をノックする。
「電話、終わってからでもいいですからね」
と、やさしく言うものの、私に何か重大な用事があることは間違いなかった。
何か私が交通違反をして追ってきたのかと思い、急いで電話を切ったところ、
「今、ここで何やってるのかな?」と訊かれる。
私は当然「電話…ですが」と答えた。
「えーとね、ちょっと免許証、見せてもらえます?」
ここぞとばかりに、ゴールド免許を提示する。
「お仕事は?」
「作曲とか、やってます」
「ふーん、なんか有名なの、やってんの?」
「さあ…」

何を言いたいのかこの時は理解できなかったが、少なくとも交通違反とかの類ではないらしい。
その後、いくつかの質問を受けた後、いきなり「後ろのトランク、開けてくれる?」と警官は言った。
私がトランクを手元のスイッチで開けようとしたところ「降りてきて一緒に見てくれるかな?」とやさしく言う。
意味も分からず車を降りると、あらたまってリーダーとおぼしき警官がドスの効いた声で言った。
「変なモノとか、はいってないよね?」

ああ、これって、もしや…!
私はいわゆる"警察24時"系の特番が好きでよく見ているのだが、この流れはなんか見たことがある。
…つまり、現時点において、間違いなく私は疑われているのだ!
これでトランクから武器や白い粉等が出てくればそのまま番組になるのだが、
残念ながらトランクには、事務所の入り口の花鉢に使う腐葉土が一袋入っているだけである。

「ええと、土とかは、入ってますけど…」
「なにっ!土っ!」

一瞬にして現場は緊張に包まれた。
そして4人の警官に見守られながらトランクはゆっくりと開けられ、私は袋に入った腐葉土を見せる。
「…これが、腐葉土です」
一斉に4本の懐中電灯で照らされ、闇に浮かび上がる腐葉土。
だがそれは、まぎれもない、ただの腐葉土でしかなかった。

警官はその後も、それぞれ懐中電灯で腐葉土とトランクの中を調べている。
帰宅するべく多くの通行人は、何事か、と足を止めて興味深げにこちらを見ている。
そのあまりに物々しい雰囲気から、おそらく彼らには、私が100%犯罪者に見えていたに違いない。
見せモンじゃねーぞ!と、心の中で叫んだけど、こんな光景は滅多に遭遇しないから、きっと自分もそうしたと思う。

トランクには何もないことが判明すると今度は、
「室内も見せてもらっていいかな?」と言い、そしてまたしても
「変なモノとか、はいってないよね?」とドスの効いた声で言った。

とはいえ、当然ヤバイ何かがあるワケもなく、ドアポケットやフロアマット下も入念に調べていたが、
何となく「こいつはシロ」という結論に達しつつあり、現場の緊張感は次第に薄れていった。
このあたりから警官と私は世間話を始めるようになり、互いに笑みがこぼれる。
ああ、警察の方はこうして私たちを犯罪から守ってくれているんだなあ、と妙にしみじみする…。
何だか、かえって私が犯罪者でなかったことが申し訳ないような気にすらなった。

だがそれにしても、一体どうして私だけが調べられたのか、釈然としない。
周りを見ると、停車している車なんか山ほどあるし、場所柄もっと怪しい奴なんていくらでもいるじゃないか。
そこで私は思い切って訊いてみた。

「あの…僕、怪しいんですか?」

リーダーとおぼしき警官は一瞬ニヤッと笑ったが、答えはなかった。

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