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■ めざめの方舟の音響について

 今回のシステムでは、一周6本のスピーカーを上下二段と、天井にも2本のスピーカー、そして床に2本のスーパーウーハーを設置することとなりました。
 通常、映画では、センターLCRに3本、リア(ウォール)のLRで2ch、サブウーハーという、いわゆる5.1chですが、今回は実に14.1chということになります。 スーパーウーハーが2本なのに、なぜ14.2chではないかというと、スピーカーの数がいくら増えても、同じ音を出している限り1chとカウントされるからなんです。 映画館でもリア(ウォール)スピーカーは、何本もありますが、5.1chの場合、リアはLRの2chという具合に考えられます。
 簡単に言えば、14+1本バラバラに音が出る、とお考え下さい。
 じゃあ、例えばピアノ、太鼓、コーラスと、それぞれのスピーカーからひとつずつ出せばいいじゃん、と思われがちですが、音楽としてまともなバランスでならした場合、低域の多く含まれる楽器を担当したスピーカーは相当な負担を強いられることとなり、開催期間の6ヶ月はおろか、数日でヘタってしまう可能性もあります。
(もちろんちっちゃい音なら全く問題ありませんが、今回、押井さんと僕には「できるだけでかい音で」という なんとも乱暴なサブテーマがあり、よそのパビリオンから文句がこないギリギリまで音圧を上げたかったのです)。
 しかも、ひとつひとつの楽器が超局所的に鳴るわけですから、聴いていてものすごく違和感があるのです。 パフォーマンス的には面白いかもしれませんけど・・・。
 もちろん、全てのスピーカーが同じ音、つまりモノラル+スーパーウーハーでいいのでは、という考え方もあります。 スーパーウーハーはともかく、公共施設のPAとしてはこれが最も正しいのかもしれませんし、音圧も最も稼げる方法です。
 しかし、今回はなんといっても会場が楕円形で、スピーカーが全てアリーナのセンターに向いているため、 音が全て真ん中に集中してしまうモノラルは妥当ではありませんでした。

 つまり、どの場所にいても、ある程度の"広がり感"が得られ、なおかつある程度の"音圧感"を得られるのが理想なのです。 広がり感に関しては、できるだけ各楽器を分散したり、リバーヴ(残響音)を実音から遠くすれば容易に得ることができますが、 音圧感はそういきません。
 こう書いてもピンと来ないと思いますので、試しに皆さんのオーディオの片方のchをオフにしてみて下さい。 おそらく、中低域が想像以上にショボくなったと思います。
 これは、通常の2ch再生・・・つまり普通のステレオ再生でセンターに定位する音は、2本のスピーカーで再生した場合、 3dB音圧が高くなる、という原理があるからなんです。
 余談ですが、昔TV放送がほとんどモノラルだった頃、TV納品用に"モノラー"という2chをモノラルにする便利な機械があったのですが、 これは、LR2chのフェイズを90°ずらし、結果的にセンター定位の音量を下げ、わざわざモノラルミックスをしなくてもすむ、 というスグレものでした(本当はちゃんとモノミックスした方がいいのですが・・・)。
 詳しい原理は割愛しますね。ちょっと難しくてすみません・・・。
 つまり、同相のchが多いほど音圧感が得られる、というワケなんです。
 先にご説明いたしました「モノラルだと、音圧感が得られる」理由はそこにあります。

 では、実際どうしたかをご説明します。
 今回はスタジオで14.1chのミックスをするのは事実上不可能でしたので、まず全ての楽器をそれぞれ6.1chにまとめました。 コーラス、太鼓、ストリングス、その他・・・それぞれの楽器が6.1chずつあるわけですから、 楽器数の多い百禽は、プロトゥールス上で実に200トラック近くになりました。 誤解を恐れず言えば、このまま出力すれば200.1chになるワケでして・・・(笑)。
 そしてプロトゥールスを現地の会場に持ち込み、プラズマの上での極寒ミックスダウンになったのです。

 音圧感は一周6本あればなんとかいける、という判断から、まず下段のスピーカーは、 リズム系の楽器であるドラム、太鼓、ベース等に割り当てました。
 そして上段6本はコーラス、低域を含まないシンセ等に、天井2本は"鈴"以外使用しないようにしました。 とはいえ完璧にセパレートはさせず、前述しました音圧のこともふまえ、上段6本にも少しリズムは加えています。
 また天井のスピーカーは、スクリーンやら造形物だらけの中に埋め込まれているため、あまり低域を入れてしまうと、 いろいろなモノがびびりだす可能性がありましたから、常時鳴っている楽器は避けて"百禽"の鈴だけといたしました。
 もちろん、音楽以外の効果音では使っていますけど・・・。

 スーパーウーハーは、超低域を含む音源の全てを送っていますが、ブーミーな低音は気持ちが悪いですし、 これこそ隣接するパビリオンのヒンシュクを買いかねないため、あまりコレに頼らないようにしました。
 しかも、周回路の柱に設置されたSPからの距離もあるため、いかにもスーパーウーハーが鳴っている、 と認識できるような使い方は好ましくなかったのです。

 また、最大の課題であったリバーブの処理ですが、当初ワンワンに響くかも、と懸念されていた会場はかなりデッドな状態で、 ちゃんとセパレーションもとれているため、予定通り実音の反対側から取り囲むようにいたしました。 実はこのことは予想してあり、すでに河口湖で仕込んでおいたのです(現場でそれをやる時間も機材もないからです)。

 以上のことをふまえ、各楽器のパンニングをしましたが、問題は音量でした。
「おお、けっこう出るねー」なんて言いながら、ガンガン音量を上げて作業していたところ、システムの山口さんが飛んできて、 「やばいっすよ!思いっきり赤ついてます!納品前にトばすのヤなんで・・・」 と、おっしゃったため、1.5dB下げることにいたしました。
 その後、一息つくため表に出て一服したのですが、中の音が表に思いっきり漏れている・・・っていうか、 ほとんど筒抜けであることが判明しました。 しかも、かなりの音量です。
 途中から来た人の話ですと、なんと、北ゲート付近でも聞こえていたそうで(笑)、近隣のパビリオンから苦情が来るのは もはや決定的となりました・・・。

 もともと建物自体がコンクリートのRC構造ではなく、容易に解体リサイクルできる鉄骨建築ですので、これはやむを得ません。 確かにグラスロン(吸音材)は多用していますが、低音には効果があまりないのです・・・。
 実際の開催に際しては、さらに音量を下げることになりますが、とにかくギリギリまで上げてもらうようお願いし、 長久手を後にいたしました。

 帰りの電車では、エンジニアのF氏、チャゲ君と宴会です。

 しかしその頃、井上さんとワカはSEの仕込みでもう一泊・・・。
 本当にお疲れさまでした!